A.臨床薬物動態(PK/PD)コース講義要約

A-1.PK/PD入門コース

【第1回】
I. 薬物動態情報がなぜ必要か
 薬物の効果・作用を引き起こす因子は作用発現部位中の薬物濃度であり、それは血中遊離形薬物濃度と関連づけられるため、薬物治療を進めていくための不可欠で、患者と治療を見る目を拡げるための情報である。
 個々の患者の状態に応じて血中遊離形薬物濃度の可能な変化をイメージで推定、推理することが重要であり、本コースのゴールである。

II. 薬物の血中遊離形濃度をとらえるための基本的パラメータ
 バイオアベイラビリティ:血管外に投与された薬物が全身循環血中に到達した割合
 分布容積:薬物が体内で均等に溶解していると仮定した場合の溶解体液容量
 臓器クリアランス:薬物の汚染された体液を清浄化する能力であり、清浄化速度で表現している

【第2回】
血中薬物濃度の時間的な減少の度合い:消失速度定数
 ある時間内における薬物濃度の残存比の対数値を時間間隔で割った値である。
 分布容積、全身クリアランスの相対的関係によって決定される。
 薬物固有のパラメータではない。

分布容積の変動を決定している因子:細胞外液容積、細胞内容積、細胞外および細胞内における薬物の遊離形分率
 Vd<20 L の薬物と、Vd>50 L の薬物によって、決定因子が全く異なる。
 分布容積は、投与した薬物量が殆ど低下していない時期における血中薬物濃度を決定する。

【第3回】
臓器クリアランスの変動を決定している因子:臓器を流れる血流速度、固有クリアランス、血液中薬物遊離形分率
 Ex<0.3の薬物と、Ex>0.7の薬物によって、決定因子が全く異なる(Ex = CLx/Qx; Ex: 臓器x を通過する場合の血液中薬物濃度の低下比、CLx: 薬物の臓器クリアランス、Qx: 臓器xを流れる血流速度)。
 全身クリアランスは、持続的に投与している条件下で一定に維持されている血中薬物濃度を決定する。
 経口クリアランス:経口投与された薬物量とAUCの関係における比例定数である。

経口クリアランスの変動を決定している因子:
 腎排泄型薬物;ER<0.3の薬物と、ER>0.7の薬物によって、決定因子が全く異なる。
 肝代謝型薬物;肝固有クリアランス、血中薬物遊離形分率

血中遊離形薬物濃度の変化の決定因子:
 血中薬物遊離形分率が0.2以下の薬物については、血中遊離形薬物濃度で分布容積、クリアランスを定義する。
 Ex<0.3の薬物と、Ex>0.7の薬物によって、決定因子が全く異なる。

【第4回】
B/P比:
 分布容積、全身クリアランス値の算出は、本来、全血液中に存在する薬物濃度でなくてはならないが、一般に血漿(血清)中薬物濃度をもとに算出される。
 薬物が血液中で血球中に移行するほど、全身クリアランス値は大きめに見積もられ、分布容積も正確な値を得ることが出来ないため、結果として、臓器クリアランスを決定している要因、分布容積を決定している要因の誤った見積もりを行う可能性がある。

 全血中濃度/血漿中濃度(B/P)比によって正確な見積もりが可能である。

血中薬物濃度を決定している因子:
 負荷投与直後の血中薬物濃度は分布容積、定常状態血中薬物濃度は全身クリアランス、薬物の消失速度定数は全身クリアランスと分布容積によって、それぞれ決定される。例題をもとに演習を行う。

【第5回】
肝機能、腎機能、心機能の低下時、炎症性疾患、妊娠時、乳児、高齢者における、薬物動態パラメータに影響を与える因子を把握し、血中薬物濃度、特に血中遊離形薬物濃度の変化の方向を推定する。
例題をもとに演習を行う。

A-2.PK/PD応用コース

【第1回】
I. 投与設計に必要な速度論の基礎知識
1. 薬物の動態特性を把握する(PK/PD入門コースの復習をかねて)
 薬物血中濃度の利用:製剤が特定された条件下において、発現する効果・作用と薬物血中濃度は不可分のセットとなっている。
 臨床上、そのセットを利用している例:
  (A)先発医薬品とジェネリック医薬品間、あるいは、先発医薬品とその一部の製剤添加剤を変更した医薬品、剤形を変えた医薬品、含量を変えた医薬品間の、それぞれの臨床上の同等の有効性、安全性の確認を、血中濃度の重なりによって行っている。
  (B)病態時、併用時における血中薬物濃度の変化による効果・作用の強度の変化を避けるために、変化前の血中薬物濃度に重なるように、用法・用量を調節する。ただし、血漿たん白結合が80%以上のbinding sensitiveな薬物は例外である。

2. Binding sensitiveな薬物における遊離形薬物濃度の推定の考え方を学ぶ。

3. 投与後の血中薬物濃度を把握する
 血中薬物濃度の時間的に減少していく推移は、消失速度定数、半減期によって把握できる。
 治療域内での血中薬物濃度の維持;
 ・静脈内持続投与:投与速度と全身クリアランス値による。また、定常状態に到達するに必要な時間は、半減期の4-5倍である。
 ・血管外等間隔投与:平均投与速度と全身クリアランス値による。また、定常状態に到達するに必要な時間は、半減期の4-5倍である。蓄積係数(初回投与時の血中薬物濃度と定常状態血中薬物濃度の比)は投与間隔の半減期との相対的関係で決定される。
 病態時の用法・用量の調節;
 ・Binding insensitiveな薬物の場合:定常状態血中薬物濃度あるいは定常状態平均血中薬物濃度が同じになるように、全身クリアランスの変化に対応して調節を行う。
 ・Binding sensitiveな薬物の場合:定常状態血中遊離形薬物濃度あるいは定常状態平均血中遊離形薬物濃度が同じになるように、遊離形濃度を規定する全身クリアランスの変化に対応して調節を行う。
 用法・用量の調節法:
 ・投与間隔を固定し、1回投与量を変える場合、1回投与量を固定し、投与間隔を変える方法がある。薬物のPK/PDの関係から選択する。

【第2回】
静脈内急速投与および短時間定速投与:
 単回投与および等間隔繰り返し投与、不等間隔繰り返し投与のそれぞれにおける血中薬物濃度値の推定
血管外投与:
 吸収速度によるモデルの選択:急速投与モデル、短時間定速投与モデル
 単回投与および等間隔繰り返し投与、不等間隔繰り返し投与のそれぞれにおける血中薬物濃度値の推定
 添付文書に見られる、Cmax、tmax、AUC、t1/2のそれぞれの値を用いた投与設計
 2-コンパートメント、3-コンパートメントモデルに従う薬物の、繰り返し投与時、定常状態時の血中薬物濃度の把握法、および投与設計の考え方

【第3回】
1. 演習解説
リネゾリド:インタビューホーム中の薬物動態に関する項目からの推定
 a. 薬物動態の特徴の把握
 b. 血球中薬物濃度/血漿中薬物濃度比の値から全血中薬物濃度/血漿中薬物濃度比値の推定
 c. 乳汁中薬物濃度/血漿中薬物濃度比の推定
 d. 腎障害患者,肝障害患者,高齢者における薬物動態の変化の推定
 e. 経口単回投与時のCmax,tmax,t1/2,AUCの値から,等間隔繰り返し投与によって得られる定常状態血中濃度の推定

2. 薬物血中濃度と効果の関係の基礎知識
 a. PK/PDプロファイルを必要とするケース,理由
 b. 薬物血中濃度が効果と直接関係する場合
  Emaxモデル,シグモイダルEmaxモデル
  個別の限定された状況に対応した表現
  効果・作用の時間推移;血中薬物濃度の推移との対比
  投与量と薬効の持続時間,強度との関係

【第4回】
血中薬物濃度の時間推移と薬効の時間推移の間にずれが認められる場合の取り扱い:
 速度論上の対応
  コンパートメントモデルにおける末梢コンパートメント中の薬物濃度に対応する場合
  効果コンパートメントの設定による対応
 メカニズムを基礎に置いた解析
  間接反応モデル
PPIのPK/PD
抗生剤のPK/PD

【第5回】
疾患進展モデル(disease progression model)による薬効の時間推移の把握


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